「『移民』政策」の構造:国家的幻影

「日本は、「移民」を受け入れるのか⁉️」

 外国人に関わる政策、特に在留資格関連政策が話題になるときに、にわかに上記の批判等が巻き起こる。近年では、「外国人特定技能制度創設」「外国人技能実習制度廃止からの外国人育成就労制度創設」等である。

1.「移民」の不確定性

 しかし、そもそも「移民」という言葉には、統一的見解というべき法的定義はない(なお、「外国人」は、日本の国籍を有しない者をいう。」(出入国管理及び難民認定法第2条1号)と法的に定義されている)。つまり、「移民」を取り上げる論者によって、同じ「移民」という言葉を使っていても、全く異なる内容を主張していることになる。そのため、感情的になりやすい議論であることに加えて、さらに議論が噛み合わないため不毛な状況に陥ることが多い。

 この点について、安倍晋三総理大臣(当時)は、衆議院(2018年3月9日)における答弁において「国民の人口に 比して、一定程度の規模の外国人を家族ごと期限を設けることなく受け入れることに よって国家を維持していこうとする政策」と移民政策を例示している。この政府見解を前提とすれば、「移民」の定義は、「外国人を家族ごと期限を設けることなく受け入れること」(以下「政府定義」とする)となるだろう(近藤秀将,2021,『外国人雇用の実務〈第3版〉』中央経済社.)。政府定義を前提とするのであれば、確かに現在、日本は移民政策を採用しておらず、「移民」を受け入れていないということになる。

 もっとも、この政府定義に拠っても、結果的に外国人を家族ごと期限を設けることなく受け入れる」という現状=家族単位での永住許可及び帰化許可=はあるが、これらは、政府が意図した政策ではなく「意図しない結果論」といえる。

2.「移民」政策の構造

 まず、「外国人特定技能制度創設」「外国人技能実習制度廃止からの外国人育成就労制度創設」等は、在留外国人を増加させる政策である。だからこそ、「日本は、「移民」を受け入れるのか⁉️」という批判が巻き起こる。

 しかし、在留外国人増加=移民政策という式は成立しない。

 なぜなら、「移民」の定義次第で移民政策の内容も大きく変わるからである。

 例えば、国際連合広報センターでは、「多くの専門家は、移住の理由や法的地位に関係なく、定住国を変更した人々を国際移民とみなすことに同意しています。3カ月から12カ月間の移動を短期的または一時的移住、1年以上にわたる居住国の変更を長期的または恒久移住と呼んで区別するのが一般的です。―国連経済社会局」としている。 これを便宜上「国連定義」とするが、この内、「1年以上にわたる居住国の変更を長期的または恒久移住」というのが、いわゆる「移民」と考えれば良いだろう。この国連定義を前提とすれば、1年以上の中長期在留外国人を受け入れている日本は、既に移民政策を採用していることになる。

「移民」

①政府定義:外国人を家族ごと期限を設けることなく受け入れること

②国連定義:1年以上にわたる居住国の変更

 本稿では、「移民」定義に②を採用する。

 なぜなら、広い定義を採用することで、議論の対象となる範囲を多くできるからである。

 したがって、移民政策は、α外国人政策とβ人口政策から構成されることになる。

「日本は、「移民」を受け入れるのか⁉️」という批判は、β移民政策に対してのものであるが、既に中長期在留者を受け入れている日本は、α移民政策を採用している。したがって、「日本は、「移民」を受け入れるのか⁉️」という批判は、「日本は、人口政策として「移民」を受け入れるのか⁉️という表現にすべきだろう。

 また、在留資格「永住者」(以下「永住権」)の取消事由に、「最低年間日本滞在日数」(以下「滞在要件」)が規定されると、日本が人口政策としての「移民」政策を採用したと言えるだろう。なぜなら、人口政策は、人口の維持拡大を目指すものであることから、永住権取得した外国人の主な在留国が日本でなければならないからである。

 なお、現在の永住権取得は、「(前略)その者の永住が日本国の利益に合すると認めたときに限り、これを許可することができる。」(入管法22条)とし、国益適合者であることを前提とし、滞在要件を課していない。そのため、永住権取得後に日本以外の国を主な在留国とする者も少なくない。

【参考】アインが見た、碧い空。: あなたの知らないベトナム技能実習生の物語