人口減少国家論:「移民」は、人口減少対策とはならない。

1.日本の人口減少過程

【2023年(令和5年)10月1日現在(概算値)】

 <総人口> 1億2434万人で、前年同月に比べ減少▲60万人(▲0.48%)総務省統計局(https://www.stat.go.jp/data/jinsui/new.html

https://www.soumu.go.jp/main_content/000273900.pdf

 2050年の日本の人口は、9,515万人となると推計されています。これは、これから約20年で3,000万人以上という大規模な人口減少が生じることを意味します。さらに、今後100年で明治維新時と同程度までとなり、日本が、この1,000年間でも見られなかった急激な人口減少に陥ることになります。

 この点、「人口減少」について、あまり危機感を持たない論者もいます。

 しかしながら、上記の表を見ても分かるように、日本が先進国へ成長できたのは、人口増加と密接に関連しています。

 人口の多さが、国の強さとなる。

 そのため、人口減少を「移民」で補おうとする考えがあります。

 ところが、そもそも3,000万人以上の「移民」を受け入れるというのは、現実的ではありません。つまり、「移民」による人口減少対策は、焼石に水程度のものにすぎません。

 したがって、日本の人口減少対策として「移民」を使うというのは、現実的ではなく、全く異なるアプローチが必要となります。また「移民」という言葉は、それを聞く者の感情を騒つかせるものであり、かつ、その定義自体が曖昧であることから不毛な「移民受入議論」に陥りやすい傾向にあります。

2.「移民」

 「移民」の定義については、例えば、国際連合広報センターのサイトには、「移民」について次のように掲載されています。   

移民

国際移民の正式な法的定義はありませんが、多くの専門家は、移住の理由や法的地位に関係なく、定住国を変更した人々を国際移民とみなすことに同意しています。3カ月から12カ月間の移動を短期的または一時的移住、1年以上にわたる居住国の変更を長期的または恒久移住と呼んで区別するのが一般的です。

国連経済社会局

  これを便宜上「国連定義」としますが、この内、「1年以上にわたる居住国の変更を長期的または恒久移住」というのが、「移民受入議論」に挙がってくる「移民」の定義のひとつとなるでしょう。ただし、この国連定義を前提とすれば、1年以上の中長期在留外国人を受け入れている日本は、既に「移民受入国」となり「移民受入議論」は、そこで終了します。  

 一方、安倍晋三総理大臣(当時)が、衆議院(2018年3月9日)における答弁において「国民の人口に 比して、一定程度の規模の外国人を家族ごと期限を設けることなく受け入れることに よって国家を維持していこうとする政策」と移民政策を例示したうえで移民政策不採用の政府見解を前提とすれば、「移民」の定義は、「外国人を家族ごと期限を設けることなく受け入れること」となり人口政策の方向性となるでしょう(近藤秀将,2021,『外国人雇用の実務〈第3版〉』中央経済社.)。これを便宜上「政府定義」としますが、これを前提とするのであれば、確かに、まだ日本は、「移民受入国」となっておらず、「移民受入議論」の実益はあります。  

 このように定義が曖昧な「移民」でありますが、人口減少対策としては、どの定義を採用したとしても、そもそも3,000万人以上という数を確保及び管理することが不可能であることから実効性に疑義が生じます。

 私は、「移民」は、数を基準にするのではなく、質を基準にすべきだと考えます。つまり、「移民」の本質を「日本人の代替要員」ではなく、「外国人だからできること」をもって日本の国益に資する活動をする、というように再定義します。

 これは、拙著『外国人雇用の実務』(中央経済社)等で述べている、「外国人の専門性は、外国人であること(外国語能力・外国文化慣習への理解)」、ということです。

 しかしながら、たとえば、技能実習生は、日本において「外国人だからできること」をしておらず「日本人の代替要員」にすぎません。特定技能外国人も同様であり、彼らを3,000万人以上減少する「日本人の代替要因」とするのは、日本の社会構造(秩序等)からしても不可能です。したがって、技能実習生や特定技能外国人のような「移民」をいくら増やしても人口減少対策にならず、焼石に水となります。

 重要なのは、「外国人だからできる」ことで日本の国益に資する「移民」です。彼らは、急激な人口減少国家へと変貌していく日本において、生産性向上を促すため、日本にイノベーションを起こす契機とします。

【参考】生産性(https://www.jpc-net.jp/movement/productivity.html

3.「強い日本」再創造

 日本は、強くなければなりません。

 「強い日本」が、アジアのバランサーとして、アジアの平和、アジアの全体利益を実現する。

 では、「強い日本」と言える基準は、どこに求めるべきでしょうか。

 私は、やはりGDP であると考えます。まず、GDPの定義は、「GDPは国内で一定期間内に生産されたモノやサービスの付加価値の合計額。 “国内”のため、日本企業が海外支店等で生産したモノやサービスの付加価値は含まない。」(内閣府:https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/otoiawase/faq/qa14.html)となります。

 そして、

 GDPは、人口✖️生産性です。 

 したがって、これからの約20年で3,000万人以上という人口急減期に入る日本のGDPは、急落していく……このまま何も対策をしなければ。

 そもそも、日本のGDP増加は、人口増加によって支えられてきました

【参考】内閣府「Q11 人口急減・超高齢化は経済成長にどのように影響しますか。」(https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/sentaku/s3_2_11.html

 かつてない人口急減期においてもGDPを維持拡大するには、生産性を向上させるしかありません。

 これまでの日本のGDP成長は、恵まれた人口増によって支えられてきました。そのため、GDPのもう一つの変数である生産性については、「甘い見積」で放置させられていたと考えます。その結果として「日本型資本主義」という「神話」あるいは「都市伝説」に代表されるような「欧米、他のアジア諸国とは異なる独自の日本経済」というものが主張されるようになりました。それは、「日本はすごい!」というような「甘い幻想」で日本国民を眠らせようなものではないでしょうか。

 人口急減期に入る日本は、生産性と真剣に向き合わなければならない。

 私は、日本の生産性を向上させるため最も効果的なのは「女性が稼ぎやすい社会構造への変革」であると考えます。

 まず、日本の男女間賃金格差は、令和3(2021)年の男性一般労働者の給与水準を100としたときの女性一般労働者の給与水準は75.2となっています。この数値は、OECD平均が、88.4であることからすると日本の男女間賃金格差は国際的に見て大きい状況にあることが分かります。

【参考】男女共同参画局(https://www.gender.go.jp/research/weekly_data/07.html

平均点以上のものを底上げするよりも、平均点以下のものを底上げする方が、効率的に大きく伸ばすことができます。

 これは、各論においては、女性のキャリア中断となっている出産、育児等へのサポート政策に現れるでしょう。ただし、これらの政策については、現在においても議論され実現されています。

 しかしながら、「女性が稼ぎやすい社会構造への変革」につながっている実感にはなっていません。

どうして、でしょうか?

 それは、総論なき各論だからだと考えます。

 つまり、総論=理念がない。

 理念なき政策は、パフォーマンス的なものになります。だから、結果が出ない。これまでの日本において、こんなパフォーマンスが許されていたのは、人口増加により日本のGDPが増えていたからです。

 しかしながら、こらからの人口急減期を目の前にしている日本では、パフォーマンス政策は、日本という国の存亡に関わります。

 もうパフォーマンス政治は、必要ない!

 必要なのは、パフォーマンスではない本物の政治です。本物の政治とは、「甘い幻想」ではなく「厳しい現実」を国民に突きつけ、国民とともに「強い日本」を取り戻す政治です